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空に手が届く場所
どこに住んでいても、家の近くに一つは街中の死角を探す癖がついた。
家の中でなく、一人になれる場所を。空を見上げ、物思いに耽る場所を。
誰にも見留めがられず、誰の邪魔にもならず、それでいて街の息吹きが感じられる場所。
そこで僕は、言葉にすることの無い思考に戯れ、時に少し泣く。

初めに見つけたのは下流の川に掛かった橋の下だった。春になれば桜が咲き、夏になれば逢い引きの名所で、秋になればススキがたなびき、冬になれば渡り鳥が羽ばたく場所だった。
そこで僕は言うことのできない情熱だとか怒りだとかを紫煙と共に吐き散らしてから、家路に急いだ。
鬱屈とした衝動は、何もない田舎町の川岸の風景に溶けて、空は相変わらず高かった。

もう何年経っただろう。
あの時行きたくて仕方なかった未知の場所で、今僕は日常を過ごす。
もう見知ってしまった街の中の、不思議に人が気付かない公園で、僕は相変わらず紫煙を吐き散らす。
傍らにはあの頃は買わなかった缶コーヒーがある。

そこで僕は相変わらず物思いに耽る。
そのピースは大分様変わりしてしまったけれど。

もう川は流れないし、空は低くて狭い。雀ですら余り見かけない。頭の中の思考は狡さを覚えてしまった。
曲がった鉄砲玉のような盲目の純粋な思想は磨り減ってしまった。
気付かないうちに、僕は大人になっていた。

それでも、僕は息をして、ここで生きている。
何故だか人の目につかない、道路に面した暗くて狭い公園は、あの日の川岸に、非常階段の行き着く先に、箱庭のような屋上に、繋がっている。
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