春は急に来る。空気の鋭さが少し和らいだと思ったら、梅が咲き始め、桜が膨らみ出し、野花が様々な色と形で咲き乱れ、桜が咲き誇る。何もなかったと思っていたところに、こんなにも生命があったのだと、誇るように存在を現す。そうして、気付けば冬が終わって春になっている。

春は毎年来るものだけれど、今年の春は印象深いものとなった。春の訪れと同時に僕の漠とした願望は具現化した。そうしてこの状況は、秋と共に必ず終わることを知っている。春が訪れると同時に、カウントダウンがスタートした。決して戻らない時計の針。砂時計が落ちきるまでに、僕等はあと何回温度を感じるだろうか。どれだけの時間を過ごすだろうか。どれだけの言葉を交わすだろうか。どれだけのことを知るだろうか。

既視感甚だしい。あのときは梅雨のころに強制終了した。収斂は、終わりに向かう美を持っている。冬頃まで何とか生き延びたけれど、収斂の美を越える程の高まりを得ることはついぞなかった。

あの終わり間際の光は、感情と欲望が混じり合った、とても綺麗な光だった。そしてまた、似た力を感じる光を見た。あのときと同じ、特別な輝き方をしていた。

何度だって繰り返す。そうして僕は傷みながら、感情の発露と芸術の源泉を求めて彷徨う。阿呆の所作だと分かっている。何の未来も生み出さない。それでもそこに客体があるから、僕は何の躊躇もなく、手を伸ばす。

春は終わり、夏が来る。夏が終わる頃、全てが収斂する。その時僕は、何を歌うだろうか。
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金木犀香る坂道
金木犀の香り、暗がりの坂道、何時も通りの急ぎ足。
明日にはあなたはいなくなってしまう。
嘘みたいに、日常のように、時間だけ過ぎる。

白々しい照明の下、大部屋の端。
要塞みたいな壁の奥に、私とあなたは在った。
いずれこの要塞は緩やかに壊れていくと信じていたけれど、
急転直下の大きな力、この小さな体では何もできず、思いをただ川の流れに放った。

柔らかな声、眼鏡の奥、横顔しか盗み見ることができない。
目を伏せてはその周波数を忘れないように刻み込んだ。
天性の先生は沢山の言葉を投げるから、まるで一緒に映画を観るように、趣のないデータを覗き込んだ。

秘密をたくさんもった、偽悪的なあなたは、明日には広い世界に行く。
いつか、私も羽ばたくから、そのときまで私の視界から、消えてなくならないで欲しい。

明日から私は忙しいと呟いて、あなたがいないことを見ないようにするだろう。
立ち止まったとき、あなたがいた席に自分が座っていることに、吃驚して、少し泣きたくなるだろう。
ここのところ池のほとりに逃げる回数が増えていたのは、メランコリーを咀嚼するためだった。
そうでもしないと、耐えられない。
嗜好品にしてしまわないと、潰れてしまう。

漸くあなたの望みが叶って、本当に嬉しく思う。
でも同じくらい、もう少しだけ時間が欲しかったとも思う。

アルコールを杖にして放り出した言葉は、ちっとも嘘じゃない。
柔らかな声、願わくば長く、私に食べさせて欲しい。
金木犀の香り、薄暗い道、偶然触れる手。
平行世界で戯れておくれよ。
いつだって、構わない。
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少しでも暖かくなれば良い
言葉を尽く程の情景がモニタから覗く
嘘みたいだと 嘘であって欲しいと
でも嘘で無いのなら ここで祈る
そして支える

本当の悲劇が詰まっている
全部分かることができるなんて奢ったことは言えない
分かろうとする指向性が大切なのだと思う
そしてそれを保つことが

この手に何ができるか考えあぐねている
直截的な力の無さに途方の無い絶望を感じる

考えあぐねて立ち止まるなら どちらの方向にせよ歩を進めるべきだ
無心に歩いていればダビデの星はいつか輝くだろう
視線をもっと遠くへ 遠くへ
この手に何ができるだろうか
探しながら歩こうと心を決める
早く見つけたい そして力を持ちたい
今よりももっと
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それぞれの湖畔
とてもシンメトリーな、精緻な構造をその手で組み上げる彼の人を見て、私は畏怖と畏敬と憧れを感じた。
その手は、その頭は、その体は、己の実存すら構造化する。見え透いた形で。
その様を感じた時、現実とは相容れないと解っていながら、この魂を私のイデアにしたいと願った。

憧憬と同一化は必ずしも矢印で結ばれるものではない。これまでだって、何度もこの真綿で首を絞めてきたではないか。

しかし、新たな視点を得た時、同一化を欲する心証に論理を得た。
彼の人はとても見知ったフォルムだった。未知でなく、天才でなく、昇華しかけた写し絵だった。単に憧憬を元にだぶらせた訳ではなかった。

あの丸は、深い海だ。気恥ずかしくなる様な構造は、柔らかい魂のための鎧だ。
私はそっくりな、でもまだ稚拙なパーツを持っている。まだ磨かれていない原石の様な、霧を吐き出す湖を。
その湖面は彼の人の中で広がり、たまに日を受けて光る。私はそれを食べて、安堵する。

それはこんなにも膿んだ、客観という名の限りない視線を振り払えない、柔らかい魂の持ち主の活劇だ。
だからこそ、私は惹かれ、愛する。その外側の幻影ですら。全てを飲み込む。そして、模倣する。

幼い頃から相変わらず、S極の要素は不変のようだ。私は大きくなった。沢山のものを得た。それでもあの青い部屋に還る。
そこで茶色いノートに、拙い世界を描く。

時は経てど何も変わらない。少し巧くなっても、変わらない。
それでも彼の人の様な輝く湖面を得ることができるならば、柔らかい魂を恥じることは辞めよう。私は落ちるまで、この構造を全うしよう。
太陽を昇らせることができるのは、この手だけなのだから。

魔法使いになれないならば、手品師になろう。極限まで自覚的な運動。
鳥はそろそろ、競うスピードより重要な着地点を探し出す。
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きょうだいのはなし
日の当たらない部屋できょうだいは朝を迎える。
白み始めたような色彩の中で、ゆるんだ時間を共有する。
その視線はぜんぜん交わらなくて、でもそれに気付かない振りをする。
ふたりとも、大人になったからだ。

少し悲しいことのように思えるけれど、それはきっと幸福なことなんだろう。
と大きい方はぼんやりと思う。
小さい方は、羽根のような心持ちで時を過ごす。それは決して形にはならない。
流れるままに、空を泳ぐ。

戦ったりであるとか、走ったりであるとか、悩んだり、罠を仕掛けたり、
そういう世界にふたりは暮らしているのに、この部屋はいつもゆるりとしている。
もう何度日が昇ったかさえ分からない、薄暗い部屋。
とても近いのに、たくさん知ってるのに、きれいな線はかけない。
ただからだがあって、思考があって、ゆるんだ時間がある。
でもそれが幸福なのだと、ふたりともなぜだか知っている。

ピクニックという映画みたいに高い塀の上を歩いていく。
落ちそうになりながら、いろんなものを見て、いろんなことを喋る。
空をみた。星をみた。川をみた。猫に会った。
ふたりはどこまでいけるだろうか。
どこまで塀は続いてるだろうか。
まだ、見えない。
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空に手が届く場所
どこに住んでいても、家の近くに一つは街中の死角を探す癖がついた。
家の中でなく、一人になれる場所を。空を見上げ、物思いに耽る場所を。
誰にも見留めがられず、誰の邪魔にもならず、それでいて街の息吹きが感じられる場所。
そこで僕は、言葉にすることの無い思考に戯れ、時に少し泣く。

初めに見つけたのは下流の川に掛かった橋の下だった。春になれば桜が咲き、夏になれば逢い引きの名所で、秋になればススキがたなびき、冬になれば渡り鳥が羽ばたく場所だった。
そこで僕は言うことのできない情熱だとか怒りだとかを紫煙と共に吐き散らしてから、家路に急いだ。
鬱屈とした衝動は、何もない田舎町の川岸の風景に溶けて、空は相変わらず高かった。

もう何年経っただろう。
あの時行きたくて仕方なかった未知の場所で、今僕は日常を過ごす。
もう見知ってしまった街の中の、不思議に人が気付かない公園で、僕は相変わらず紫煙を吐き散らす。
傍らにはあの頃は買わなかった缶コーヒーがある。

そこで僕は相変わらず物思いに耽る。
そのピースは大分様変わりしてしまったけれど。

もう川は流れないし、空は低くて狭い。雀ですら余り見かけない。頭の中の思考は狡さを覚えてしまった。
曲がった鉄砲玉のような盲目の純粋な思想は磨り減ってしまった。
気付かないうちに、僕は大人になっていた。

それでも、僕は息をして、ここで生きている。
何故だか人の目につかない、道路に面した暗くて狭い公園は、あの日の川岸に、非常階段の行き着く先に、箱庭のような屋上に、繋がっている。
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暴力への志向性
思うに、照り返しによって、鏡像によって、
影の輪郭が捉えられる。
そうでもしないとこの体さえ捕まえることができないのは、
実際不健康なんだろう。
いつだってそうだから、よく分からない。

男の子になりたかったことなど、ただの一度だってない。
私はいつだって、現状を愛している。
とても逆説的。
そのパラドクスは君に見えるだろうか。
だとしたらとても、恥ずかしい。

愛着と誇りは=じゃない。
≒くらいまでには持っていきたいのだけど。
もう少し、大切にしてあげたいのだけど。
いつになったらできるだろうか。
できる日は来るだろうか。

認識していることを旗印に、私はこの生を全うしたい。
偶にページを閉じてしまいたくなるけれど、
それはいつでもできるから、と、
自分に言い聞かせる。
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ネオンサインは消えないで
 たまに、全部が悲しくなる時がある。
そんな時に一番頭の中を巡るのは、こんなに沢山のことを、私は一生かかっても全部飲み込むことはできないんだと、そういう悲しさだ。
本屋に立ちすくむその時、このちっぽけな存在をどうにでもしたくなる。
手触りはいつもざらざらとしていて、真っ黒でマットな色をしていて、昔ニーチェが言ったみたいな深淵と、小さい頃から見ていた深い海がだぶって見える。
でももう慣れているから、そんなのを頭の隅に追いやって、家路を急ぐ。偶にそれを引っ張りだして変形して遊んで、ついでにあの日見た君の顔を覗き込む。池袋は今日も五月蝿い。そして装飾的な色がまき散らしたみたいに光る。
そうして沢山寝て、日の当たらない部屋で青白い顔をして起きると、その悲しいものは消化されている。嘘だったみたいに消えてなくなっている。

そうやって何度も回って、何度も戯れて、数限りなくすり減って、分からなくなるくらいに繰り返す。これまでもこれからもずっと続く。ループには美があると論文に書いたけれど、実際のループの先に安寧を認めることはできるだろうか。繰り返すリズムに浸かって幸せだと呟くことはできるだろうか。
例えば二つが一つになったとき、私はきっと望んでいるだろうし多分上手くやれるのだけれど、それでも真に、ループする日々を生ききることはできるだろうか。

特殊を望む平凡であることは誰よりもよく分かっている。それでも、信頼に足りない。十字架の前でなぞ誓えない。早く老いさらばえたい。そんなこともあったわと笑ってみたい。
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グーテンベルクで君を知る
あの日、大きなことの後で、少し憔悴して、少し得意気に昨日のことを話してた君に。

私は、分かってた筈だった。当たり前のことだった。だけど君をまだ解らなかったから、ステロタイプの探求者を、君とだぶらせてた。

分かってた筈だったのに。君は私と同じ世界を生きてた同じ人間で、決してマッドサイエンティストじゃないことくらい。

思いもよらない所から、あの日の君を知った。君はやっぱり、ただの、強い、人間だった。

あの時、ちゃんと言えばよかった。空気なんか読まなくてよかった。あの時の君は時計の針見つめて、平静を取り戻そうとしてるみたいだった。

強い人間を、強い儘抱き止められるような、そんな人間になりたい。

君はただの、弱くて強い人間だった。
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魔法使いの弟子
僕に何が備わっているだろう。と伏し目がちで思考の海に潜る時、何時も岩陰から、奴等が顔を覗かせる。

傲慢だと、長じてから何回考えただろう。
狭量だと、何度省みただろう。

僕にできるのは、
美しいとかじゃなく、
ただ必死に、息を殺すことだけだ。

そして少しだけ辺りのことに敏感になって、あの世界に君を連れて行くだけだ。

これが僕にできる唯一のことならば、僕は豊かな世界にしなければならない。少しでも、エリクチュールを、見事な織物にしなければならない。美しい、景色を編まなければならない。データベースに、触れねば

大きくなりたい。絶望しない、大きな人間になりたい。
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double happiness
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